クイーンズビースト(The Queen’s Beasts)は、イギリス王立造幣局(The Royal Mint)が2016年に始め、2021年に全10種+総集編「コンプリーター」でシリーズが完成したコインシリーズです。エリザベス2世女王の戴冠式(1953年)を飾った10体の紋章獣がモチーフで、完成後は新規発行がないため、市場に流通している分だけのコレクションになっています。
- クイーンズビーストというシリーズの成り立ちと10体の獣の由来
- 全10種+コンプリーターの発行順・デザインの見どころ
- 金貨・銀貨・プラチナのサイズと仕上げの全体マップ
- 完成済みシリーズならではの価値の見方・集め方

クイーンズビーストとは? — 戴冠式の10体の獣
1953年6月2日、エリザベス2世の戴冠式の日。会場のウェストミンスター寺院前に設けられた式典用の別館入口に、高さ約1.8mの石膏像が10体並びました。彫刻家ジェームズ・ウッドフォードが制作したこの像こそ「クイーンズビースト(女王の獣)」。それぞれが女王の家系に連なる王家・貴族の紋章獣で、1000年におよぶ英国王室の系譜を10体で表したものです。オリジナルの像は現在カナダ歴史博物館が所蔵し、ロンドンのキュー王立植物園には石造のレプリカが立っています。
2016年、王立造幣局がこの10体を1体ずつコイン化するシリーズを開始しました。担当したのは、現行エリザベス2世肖像(第5肖像)のデザイナーとしても知られる彫刻家ジョディ・クラーク(Jody Clark)。紋章学の様式美を保ちながら現代的な迫力あるレリーフに仕上げたデザインは発表当初から人気を集め、第1弾「イングランドのライオン」銀貨は世界的に品薄となりました。
シリーズの基本情報
| 発行期間 | 2016年〜2021年(全11リリースでシリーズ完成) |
|---|---|
| 発行元 | イギリス王立造幣局(The Royal Mint) |
| デザイナー | ジョディ・クラーク(Jody Clark) |
| 構成 | 紋章獣10種+総集編「コンプリーター」 |
| 現在の状況 | シリーズ完成・新規発行なし(流通在庫のみ) |
クイーンズビースト全10種+コンプリーター 一覧
発行順に並べると、英国王室の歴史を巡る旅のような構成になっています。名称をタップすると各獣の解説へ飛べます。
| 順 | 名称 | 発行年 | モチーフの由来 |
|---|---|---|---|
| 1 | イングランドのライオン | 2016 | 王冠を戴く獅子。イングランド王家の象徴 |
| 2 | グリフィン | 2017 | エドワード3世の鷲獅子。警戒と武勇の象徴 |
| 3 | レッドドラゴン | 2017 | ウェールズの赤竜。チューダー朝の紋章 |
| 4 | ユニコーン | 2018 | スコットランドの一角獣 |
| 5 | ブラックブル | 2018 | クラレンス公の黒牛。ヨーク家の系譜 |
| 6 | ファルコン | 2019 | プランタジネット朝の隼 |
| 7 | エール | 2019 | ボーフォート家の幻獣エール |
| 8 | ホワイトライオン | 2020 | モーティマー家の白獅子 |
| 9 | ホワイトホース | 2020 | ハノーヴァー朝の白馬 |
| 10 | ホワイトグレイハウンド | 2021 | リッチモンド伯の白い猟犬 |
| 完 | コンプリーター | 2021 | 10獣が一堂に会する総集編 |
※発行年は地金型(ブリオン)基準。プルーフ版は年銘が前後する獣があります(例:ユニコーンのプルーフ銀貨は2017年銘)。
各紋章獣を写真で紹介
1. イングランドのライオン(2016)— すべての始まり

王冠を戴いた獅子が盾を支える、シリーズの記念すべき第1弾。イングランド王家を象徴する紋章獣で、盾にはイングランド・スコットランド・アイルランドを組み合わせた王室紋章が刻まれます。第1弾ゆえに発行後すぐ市場で品薄になり、いまでもシリーズ内で特に人気の高い1枚です。
| 発行年 | 2016年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/1オンスプルーフ銀貨ほか |
2. グリフィン(2017)— エドワード3世の守護獣

鷲の上半身と獅子の下半身を併せ持つ伝説の生物グリフィン。財宝の守護者とされ、エドワード3世の私的な印章にも使われていました。コインでは翼を広げた躍動感あるポーズが印象的で、盾にはウィンザー城の円塔が描かれます。
| 発行年 | 2017年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/プルーフ各種 |
3. レッドドラゴン(2017)— ウェールズの赤竜

ウェールズ国旗でおなじみの赤竜(レッドドラゴン)。チューダー朝の開祖ヘンリー7世が掲げた紋章で、ボズワースの戦い(1485年)でこの旗の下に勝利し王位に就いた逸話で知られます。竜好き・ファンタジー好きの層からの支持も厚い人気デザインです。
| 発行年 | 2017年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/1オンスプルーフ銀貨(当店で販売中・2018年銘) |
4. ユニコーン(2018)— スコットランドの誇り

スコットランド王家の象徴である一角獣。「自由を奪われることを良しとしない」気性から、紋章では鎖につながれた姿で描かれるのが伝統です。コインでも首の鎖まで忠実に再現されており、細部を見るほど紋章学の約束事が発見できる1枚です。
| 発行年 | 2018年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/1オンスプルーフ銀貨(2017年銘) |
5. ブラックブル(2018)— ヨーク家の黒牛

クラレンス公ライオネルに由来し、ヨーク家の王たち(エドワード4世、リチャード3世)に受け継がれた黒牛の紋章。力強く踏み込む姿と、イングランド王室紋章の盾の組み合わせが重厚な印象を与えます。
| 発行年 | 2018年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/プルーフ各種 |
6. ファルコン(2019)— プランタジネット朝の隼

エドワード3世が狩猟への情熱から採用した白い隼。翼を大きく開き、開いた足かせ(フェッターロック)を配した盾に留まる姿が描かれます。「開いた足かせ」はヨーク家の野心を示す意匠とも言われ、紋章の物語性が特に豊かな1枚です。
| 発行年 | 2019年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/プルーフ各種 |
7. エール(2019)— ボーフォート家の幻獣

山羊の体に猪の牙、自在に動く角を持つとされる幻獣「エール」。ヘンリー7世を産んだマーガレット・ボーフォートの家紋として知られ、ケンブリッジ大学のカレッジ門にも彫刻が残ります。10獣の中では知名度が低めですが、由来を知ると印象が変わる、物語の濃い1枚です。
| 発行年 | 2019年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/プルーフ各種 |
8. ホワイトライオン(2020)— モーティマー家の白獅子

第1弾のライオンと対をなす、王冠を持たない白獅子。エドワード4世の祖母にあたるアン・モーティマーの家系から受け継がれた紋章です。白バラ(ヨーク家)と輝く太陽を組み合わせた「白バラ・アン・ソレイユ」の盾が特徴で、静かな気品のあるデザインです。
| 発行年 | 2020年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/1オンスプルーフ銀貨ほか |
9. ホワイトホース(2020)— ハノーヴァー朝の白馬

1714年、ジョージ1世の即位とともに英国王室に加わったハノーヴァー朝の白馬。疾走する馬の姿に、英独の王室紋章を四分割した盾を組み合わせています。躍動感ではシリーズ随一との声も多い1枚です。
| 発行年 | 2020年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/プルーフ各種 |
10. ホワイトグレイハウンド(2021)— 最後の紋章獣

リッチモンド伯エドムンド・チューダーに由来する白い猟犬で、忠誠の象徴。チューダー朝の赤白バラを組み合わせた盾とともに描かれ、10獣の最後を飾りました。「最後の獣」として求めるコレクターも多い1枚です。
| 発行年 | 2021年(地金型) |
|---|---|
| サイズ展開 | 2オンス地金型銀貨/1オンス・1/4オンス地金型金貨/1オンスプルーフ銀貨ほか |
11. コンプリーター(2021)— 10獣が一堂に

シリーズの最後に発行された総集編。10体すべての紋章獣が円環状に配置され、5年間の物語がこの1枚に凝縮されています。2021年の発売時には2オンスプルーフ銀貨や1/4オンスなど複数の仕様が用意され、シリーズ完成後の2024年にはスクエア(四角形)タイプも登場するなど、コンプリーターだけでも展開が多彩です。「全部は集めきれないけれど、シリーズの世界観を1枚で持ちたい」という方に選ばれることが多く、当店でも問い合わせの多い定番です。
| 発行年 | 2021年(2024年にスクエア版も) |
|---|---|
| サイズ展開 | 1オンスプルーフ銀貨/2オンスプルーフ銀貨/5オンスプルーフ銀貨/1kg地金型銀貨/金貨5g ほか多数 |
サイズと仕上げの全体マップ
クイーンズビーストは同じデザインでも「地金型(ブリオン)」と「プルーフ(鏡面仕上げの限定版)」があり、サイズによってどちらが存在するかが違います。銀貨を例にまとめるとこうなります。
銀貨のサイズ展開
| サイズ | 地金型 | プルーフ | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 1オンス | — | ○(限定枚数・箱/証明書付) | プルーフの入門サイズ。集めやすい |
| 2オンス | ○ | —※ | シリーズの看板。地金型は最も流通量が多い |
| 5オンス | — | ○ | 大型の限定版 |
| 10オンス | ○ | ○ | 迫力の大型サイズ。後半の獣ほど流通少なめ |
| 1キロ | —※ | ○ | 最上位の限定版 |
金貨・プラチナ
| 金属・サイズ | 地金型 | プルーフ | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 金 1オンス | ○ | ○ | 本格的な資産級。地金価値+シリーズ人気 |
| 金 1/4オンス | ○ | ○ | 金で集めたい方の現実的な選択肢 |
| 金 5オンス〜 | — | ○ | 発行数が特に少ない |
| プラチナ 1オンス | ○ | — | 発行量が少なく、静かな人気 |
※発行形態は獣・年により一部異なります。2オンスのプルーフと1キロの地金型は総集編コンプリーターのみの特別展開です。プルーフには専用箱・証明書(COA)が付属し、地金型とは別の相場で動きます。
完成済みシリーズとしての価値の見方
2021年の完成以降、クイーンズビーストは「もう新しく作られないシリーズ」になりました。日々店頭で相場を見ていて感じる、価格を左右するポイントを共有します。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 発行順 | 初期の獣(ライオン、グリフィン、ドラゴン)ほど市場在庫が枯れやすく、プレミアムが乗りやすい傾向 |
| 仕上げ | 地金型は地金相場連動+α、プルーフは限定性でコレクター相場が別建て |
| 状態・付属品 | プルーフは箱・証明書の有無で査定が変わる。地金型もカプセル保管が基本 |
| 鑑定グレード | NGC/PCGSのMS70・PF70(最高鑑定)スラブは同じコインでも別価格帯 |
なお地金型は金・銀そのものの相場にも連動します。購入・売却のタイミングを考える際は、本日の相場ページもあわせてどうぞ。
後継シリーズ「ロイヤル・チューダービースト」
クイーンズビーストの完成後、王立造幣局は同じジョディ・クラークのデザインで「ロイヤル・チューダービースト(Royal Tudor Beasts)」を開始しました。ハンプトン・コート宮殿の橋を飾るチューダー朝の紋章獣10体を、2022年から順次コイン化しているシリーズで、「クイーンズビーストで集める楽しさを知った」という方の次の行き先として定番になりつつあります。当店でも取り扱いを進めています。現在の取扱一覧はこちら。
よくあるご質問
Q. いまから集め始めるのは遅いですか?
完成済みシリーズなので「終わった」印象を持たれがちですが、流通在庫はまだ市場にあります。全種そろえる必要もなく、好きな獣1枚から始める方がむしろ多数派です。ただし完成済みシリーズは年数が経つほど市場在庫が減って集めにくくなっていくので、気になっている方は早めに動くほうが選択肢は多く残っています。
Q. どの獣から集めるのがおすすめですか?
正解はありません。デザインで直感的に選ぶのが結局いちばん長続きします。よく知られた獣も知名度の低い獣も、由来を知ると等しく面白いのがこのシリーズの良さです。
Q. 地金型とプルーフ、どちらを選べばいい?
地金相場に近い価格で気軽に集めるなら地金型、限定性と鏡面の美しさを重視するならプルーフです。同じ獣でも別物の市場なので、混ぜて集めても矛盾はありません。
Q. 偽物はありますか?
人気シリーズのため、贋作が作られる可能性は残念ながらあります。重量・寸法の確認や、信頼できる販売店・鑑定スラブ品を選ぶことが安心につながります。当店では真贋確認のうえで販売しています。
Q. 手持ちのクイーンズビーストを売りたいのですが。
当店で買取しています。プルーフは箱・証明書があると査定が上がりますので、お持ちの場合は一式でどうぞ。買取のご案内はこちら。
Q. クイーンズビーストとチューダービーストの違いは?
モチーフの出典が違います。クイーンズビーストは1953年戴冠式の10体、チューダービーストはハンプトン・コート宮殿の紋章獣です。デザイナーは同じジョディ・クラークで、作風の連続性も楽しめます。なお「シーモアのパンサー」「女王のライオン」などはチューダービースト側の獣で、クイーンズビーストの10体には含まれません。混同されやすいのでご注意ください。
販売中のクイーンズビースト
当店で現在ご注文いただける商品です。お取り寄せ品を含み、販売状況は変動します。
まとめ
クイーンズビーストは、英国王室1000年の系譜を10体の獣で巡る、物語性の濃い完成済みシリーズです。1枚から気軽に始められ、深追いすれば紋章学・英国史・鑑定の世界まで広がっていく——「入口は広く、奥は深い」バランスの良さが、完成から時間が経っても人気が衰えない理由だと感じています。気になる獣が見つかったら、まずはその1枚をじっくり眺めるところから始めてみてください。
恵比寿コイン(運営: MKインターナショナル株式会社/東京・恵比寿)
恵比寿の実店舗とオンラインショップで、地金型コイン・記念コインの販売と買取を行っている専門店です。クイーンズビーストを含む英国王立造幣局のシリーズは、仕入れ・販売・買取のいずれも日常的に扱っています。記事中の相場観はその実取引の体感に基づくもので、将来の価格を保証するものではありません。
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